地域に根ざして営業を続けてきた既存テナントからの移転を契機に、従来の接骨院に対する一般的なイメージを刷新し、誰もが安心して訪れることのできる、新たな「場」としての医療空間を構想した。計画地は幹線道路沿いの利便性に優れた敷地であり、地域の新たなランドマークとなるような存在感を持たせつつ、決して威圧的ではない穏やかな外観とした。来院者が最初に接するアプローチや待合スペースには、木質系の仕上げを多用し、空間全体に温もりと親しみを感じさせるトーンを与えた。無機質になりがちな医療空間に対し、木材の質感とやわらかな光が拡がる環境は、初めて訪れる人にも落ち着きをもたらすよう設計されている。接骨院という用途特性上、設備的な制約が比較的少ないことから、一般的な医療施設よりも自由なレイアウトが可能となった。そこでスタッフの働きやすさにも着目し、中央に配置したスタッフルームを核とした回遊動線を導入。診察室や施術室とのつながりを立体的かつ機能的に整理することで、視線の交差や無駄な動きのない、スムーズな業務動線が形成されている。空間ごとのスケール感や素材の組み合わせ、光の取り込み方に細やかに配慮することで、医療行為を支える機能性と、通う人々の心を支える環境性の両立を図った。日々の営みのなかで自然と街に溶け込みながら、訪れる人の不安を和らげる、地域に開かれた柔らかな医療建築としてのあり方を模索したプロジェクトである。